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第14回  谷山洋三(本学会理事・教育委員会委員長)

スピリチュアルケアの教育 〜CPEとの出会い〜

 私が「スピリチュアルケア」という言葉に出会ったのは2000年、長岡西病院でビハーラ僧として働き始めた頃です。その後、四天王寺国際仏教大学(現・四天王寺大学)で大学教員になってから、緩和ケア病棟でボランティア活動をしていた頃に、臨床牧会教育(Clinical Pastoral Education:CPE)について知りました。まだ具体的なイメージをつかめずにいましたが、その後、たまたま再会した窪寺俊之先生のお誘いにより、関西学院大学のCPEを見学する機会をいただきました。窪寺先生と伊藤高章先生のお二人がスーパーヴァイザーでした。CPEについて外から体験し、毎日グループセッション終了後に振り返りを行うことで、理解を深めることができました。

 2005年には臨床スピリチュアルケア協会(PASCH)を立ち上げることになり、2006年にはPASCHとして初めてのスピリチュアルケア専門職養成プログラムを行いました。日本版CPEの一つです。私は、記念すべき第1号の受講生になれると思っていたのですが、実際には窪寺先生と組んでスーパーヴァイザー補佐の立ち位置が与えられました。ようやく、関西学院大学でのCPE見学とその振り返りの時間は、私のスーパーヴァイザーとしての資質を図る機会だったと気づきました。

 2009年に開設された聖トマス大学日本グリーフケア研究所(現・上智大学グリーフケア研究所)や、2012年開設の東北大学大学院文学研究科実践宗教学寄附講座を含め、臨床宗教師を養成する諸大学のプログラムにも関わってきました。いずれも日本版CPEを中心としたものですが、PASCHでプログラムが始まった当初から、「日本版」ということを常に意識してきました。

 CPEでは、自他の感情に焦点を当て、それを言語化し、自己開示することが求められます。それは以心伝心を美徳とする日本の文化にはそぐわないものです。また、過度な自己開示や、強すぎる感情表現は、時として関係性を壊してしまうこともあります。近年は人権意識やコンプライアンス意識が高まり、差別やハラスメントが生じないよう教育者に配慮が求められます。また教育制度においては、「入る門は狭く、出る門は広く」という文化ですので、実は高度な専門職教育には難しい環境でもあります。

 それでもCPEには十分な魅力があります。自他の感情に焦点を当て、特に自己の感情を言語化することにより、「感情」なるものへの感受性が高まり、洞察力も高まります。自己課題に真摯に向き合うことによって、謙虚に自己を見つめ、自己の限界を知るとともに、他者の限界も理解します。デリケートな自分が、いかにしてデリケートな他者に寄り添うことができるか、体験的に学ぶことができます。自分の嫌な側面にも触れざるを得ないので、苦しい学びでもありますが、その課題を通して自己覚知、自己受容に至ると、新しい自分になったような、もしくは目の前の曇りが晴れたような経験をすることもあります。(CPEが合わないという受講生もいますので、その場合には他のプログラムをお選びください。)

 CPEのスーパーヴァイザーは、そのようなデリケートな学びの場を提供する立場にあるので、さらに細やかな資質が求められます。これをどのように表現すればいいのか悩んでいた私は、2018年にアメリカ西海岸のCPEスーパーヴァイザー数名と対談する機会を得ました。彼らからは、スーパーヴァイザーの資質として、

  •  ・グループのプロセス(ダイナミズム)を把握できる
  •  ・適切にグループに介入することができる
  •  ・個々の受講生の成長に責任をもつ
  •  ・安心な学びの場を提供できる
  •  ・人として完璧でなくてもいいが、自己課題を意識し続けることが大切
  •  ・細かすぎでも、大らかすぎてもいけな
  •  ・愛、謙虚、決断、明確な意思表示、介入する勇気、観察力、洞察力が不可欠

といったことを学びました。そして彼らは、確かにそのような資質をもった、バランスのとれた人格者だと感じました。同時に、私なんぞは、彼らの足下にも及ばないと思いました。1920年代から発展してきた、アメリカのCPEの歴史とその経験の深遠さ、そして日本との大きな格差を意識させられる経験でした。

 一方で彼らは、CPEの受講生も、スーパーヴァイザーも、プログラムも、未完成だという意識をもっていることに、少しだけ光を見ることができました。日本には日本独自の発展があってしかるべきだ、ということです。このことは、CPEを採用していないプログラムを含め、本学会でぜひ共有したいことでもあります。

 本学会には、スピリチュアルケアとは何か? スピリチュアルケア師の専門領域は? より良いスピリチュアルケア師の教育のあり方は? といった課題があります。まだまだ未確定、未開拓なところがありますが、会員のみなさんと共に少しずつ積み上げていきたいと思います。その成果は、個々の会員に直接的に還元されるだけでなく、一般市民が受益者となり、受益者が広がっていくことが、個々の会員の満足につながるようになることを願っています。