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第3回 穀田 知秋(専門スピリチュアルケア師)

看護師のためのスピリチュアルケア

穀田 知秋
(専門スピリチュアルケア師)

 

 日々の看護の中で患者や家族から向けられる言葉に、無力感や喪失感、否定的な思いを抱いたり、感情を揺さぶられたりすることはありませんか? 急性期病棟のような忙しい病棟であれば、そのような患者の訴えは多くの業務の中の一つとして流されてしまうかもしれません。しかし、患者の訴えは看護師の心のどこかに引っかかっているのではないでしょうか。自分の感情に気づき、看護師自身も心のケアをすることが大切であり、それが患者や家族のケアに通じていくと感じています。

 看護師という仕事柄、患者や家族から「何で自分だけがこんな思いをしなきゃいけないの?」「病気になりたくて産まれてきたわけじゃない」「この子と代われるものなら代わってあげたい」など、病気を抱えながら生きる辛さや心の苦しみ、生死の話題を向けられることがあります。以前の私は、その話題を避けたりごまかしたりして「そんなこと言わないで〇〇さんも頑張りましょう」などと無駄な励ましの言葉をかけて、その場から一刻でも早く立ち去ることばかりを考えていました。

 しかし、家族の死を経験して緩和ケア病棟で働き始めた時に、「早く逝きたい。もう終わりにしたい」「人の手を借りて生きていたって意味がない。このまま生きているのが辛いんです」など、死を目の前にした患者から向けられる言葉に答えを失い、何もすることのできない自分の無力感に苛まれる日々が続きました。そんな時に、患者や家族の悲しみや思いに寄り添うとはどういうことなのか、自分の心と向き合い、価値観を発見してみたいと思ったことがきっかけとなり、スピリチュアルケアの研修を受講することになりました。

 研修では、これまでの人生を徹底的に見つめ直すことで、自分の辛い経験や心に負った傷に気づき、そんな自分を温かく包み込むようにケアしてもらえたという喜びと幸福感を体験することができました。そして、自分の嫌いな部分を含めて、ありのままの自分を深く知ることで、そんな自分でさえも愛おしいと自己受容できるようになりました。何かに執着することなく、生きる喜びに気づくことができました。この貴重な体験を活かして、自分の感情を意識しながら、相手を尊重して多様な価値観をそのまま受け取れるようになりました。患者や家族から、病気を抱えて生きる悩みや死と向き合うことの苦しみを打ち明けられても、逃げ出したりごまかしたりすることなく、向き合って話を聞けるようになったと感じています。

 2016年にスピリチュアルケア師を取得して、遺族会やスピリチュアルケアに関する研修のサポート、会話記録検討会などを行っています。現在は、コロナの影響により人が集合した場での活動は難しいため、主に日々の看護業務の中で患者や家族へのケア、デスカンファレンスや個人面談などを通して、看護師のメンタルヘルスケアを行っています。デスカンファレンスでは、亡くなった患者と家族のケアを振り返り、看護師の抱えてきた心の葛藤やそれぞれの感情を素直に表出してもらい、共有することで心の負担を軽くしています。また、患者に関わった多職種全体で振り返ることで、倫理的な教育の場となり、次の看護に繋げるためのカンファレンスを心がけています。

日常の忙しさに追われ、「看護師なんだから、いちいち悲しんでなんかいられない」と、自分の感情を置き去りにするのではなく、看護師も一人の人間として、自分の感情に気づき、自分自身の心のケアを行っていくことが大切です。それが患者や家族のより良いケアに通じていくと感じています。 今後もスピリチュアルケアの学びを深め、スピリチュアルケアを必要としている人たちのためになるような働きをしていきたいと考えています。