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第18回 大村 哲夫 (本学会理事・倫理委員会委員長)

スピリチュアルケア師における倫理の特徴と学びへのいざない

 皆さんは「倫理」と聞くとどう感じますか?
道徳のような堅苦しい理念を思い出したり,ハラスメントなどを想定して厳しいルールを想起するかもしれません.規則で縛られているようで何だか窮屈さを感じる人もあるかもしれません.
しかし倫理は,ケア対象となる人を守るだけではなく,ケアを行う皆さんを守り,自由で豊かなケアを保証するものです. 
 スピリチュアルケアは,心理療法(精神療法)など他のこころのケアと異なり,基本となる標準的技法が確立されていません.そのためケアを行う人の人格(パーソナリティ)がケアの対象となる人の人格と響き合い,その結果,ケアが成立することがスピリチュアルケアの中核となります.「人格に依拠したケア」がスピリチュアルケアの特徴 であるといっても過言ではありません.人間味あふれるケアと言えるでしょう.
人格の深さや拡がりなど,そのあり方は人それぞれで,生まれや育ちによって異なり,同じ人格の人は存在しません.そのため,人格に基づいたケアであるスピリチュアルケアは,ケアを受ける人,ケアを行う人,それぞれの人格の間で実現される「一回性の出逢い」となります.そこに「豊かで個性的なケア」が顕現するということです.これは専門化された医療や心理療法では苦手とするところかもしれません.
 したがってスピリチュアルケアは,誰がいつ行っても同じ効果が得られる,というような標準化に馴染まないところがあります.人格のありようによってケアの成否が分かれることになります.

 それではより良いケアを行うため,この「人格」は,どうしたら育み高めることができるでしょうか? 技術ではない人格の向上には,マニュアル化した教育課程は存在しません.哲学の思索や宗教の修行,人生の経験によって人格を磨くことができるかもしれませんが,たとえ同じようなプロセスを辿ったとしても同じ研鑽結果が得られるという保証はありません.それほど人格の陶冶は難しいものです.

 豊かで個性的なケアの展開が期待できるスピリチュアルケアですが,その「自由」さは,時としてケアの対象とされる人だけではなく,ケアをする人をも傷つける可能性があります.特に好かれたり,嫌われたりという問題は避けることが難しく,ケアそのものが有害となることもあります.医療や心理療法の世界では,長期間にわたる技法のトレーニングを行うことで,対人関係の逸脱や倫理上の問題を一定程度防ぐことができますが,技法によらないスピリチュアルケアではそれはできません.そこでスピリチュアルケアの専門家として守る倫理の大枠を示し,具体的な問題を明示することによって,豊かで個性的なスピリチュアルケアの特性を活かしつつ,倫理問題の発生を未然に防ぐことが求められます. この目的で作られたものが「スピリチュアルケア師倫理綱領」になります.自由で豊かなスピリチュアルケアを実現するためにも,ぜひこの綱領を皆さんの座右の銘にしてください. スピリチュアルケア師の倫理綱領を守る人が,善意の素人 にとどまらない,学会の認定を受けたスピリチュアルケアの専門家と言えるのです.

 さて,人格をケアに生かすスピリチュアルケアでは,特にケアの対象となる人の人格を尊重する謙虚な姿勢が求められます.私たちが何よりも大切にしている,相手に「寄り添う」ケアを実現するためには,倫理問題を仲間と共に一緒に考えていくこと,事例に学ぶことが欠かせません.一期一会のスピリチュアルケアをより良い出逢いとするために,私たちスピリチュアルケア師は,専門家として常に学び続けていく必要があるのです.喩えて言えば,スピリチュアルケア師倫理綱領は基本問題,現場のスピリチュアルケアは1回きりの応用問題です.あらかじめ基本問題の考え方を身につけ,過去問としての「事例」に学ぶことで,臨床で瞬時に,そして臨機応変に実際の問題にあたることができるでしょう.

 2022年度から学会主催の倫理研修が始まります.対面で事例に学びながらの研修だといいのですが,どこからでも参加できるオンラインの良さも活かして進めていきたいと思います.どうぞ奮ってご参加ください.
 なお,昨年刊行した『共に生きるスピリチュアルケア 医療・看護から宗教まで』創元社にも,スピリチュアルケア師倫理綱領について,条文ごとに解説をつけています.ご参考になさってください.ケア対象者に寄り添うスピリチュアルケアを追求するために,倫理を共に考え実践していきましょう.


心理療法などに人格が必要ないというわけではありません.「たましい」や「こころ」としてスピリチュアリテイを重視してきました.その上に「技法」があるのです.
もちろん「素人」を否定する意味で言っているのではありません.認定を受けたスピリチュアルケア師には,アマチュアを超えたスピリチュアルケアの「専門家としての責任」が期待されているということです.