倫理規程

日本スピリチュアルケア学会スピリチュアルケア師 倫理規程

日本スピリチュアルケア学会 倫理委員会

はじめに

日本スピリチュアルケア学会によりスピリチュアルケアに関する「指導」資格、「専門」資格、「認定」資格のいずれかを認定されたスピリチュアルケア師(以下、「スピリチュアルケア師」)は、スピリチュアルケアの実践に際し、自らの職部に伴う社会的責任を自覚し、適切なスピリチュアルケアを提供するよう社会によって要請されている。本学会はこのような認識に基づき、ここに倫理規定を定め、スピリチュアルケアに特有の問題の可能性を念頭において、ケアの適切さを保つための指針を提示するものである。

なお、以下の本文が示すスピリチュアルケアの「適切なあり方」は、個々のスピリチュアルケア師に対して、学会が上から指令するものではなく、現代におけるスピリチュアルケアの本質についての学会としての共通理解に基づいて提示するものである。したがって、それは個々のスピリチュアルケア師が内発的・自発的に自らの姿勢として選んでいる(ないしは選ぶことができる)はずのものである。以上のような次第で、以下では「・・・しなければならない」ではなく、「・・・する」という表現で、その義務を記した。

<ケア者が人間として備えている尊厳を尊重する>

1 スピリチュアルケア師は、ケア対象者を尊厳ある存在としつつ、これに接する。
  このことは、ケア対象者がいかなる状況におかれていても、また、どのような姿勢と状況認識をもって生きていても、そのケア対象者を人としての尊厳を備えた存在と認めて、次に挙げるような対応をすることを意味する。すなわち、
  ・ケア対象者を敬意をもって遇すべき尊くかけがえのない存在であると理解する
・対象者にケア的態度で接する
・対象者を支配することのないよう絶えず自己を省みる姿勢を保つ
  などである。これらの対応と連関して、次項以下の諸点がスピリチュアルケアに際しての留意点として挙げられる。

<人種、性、年齢、信仰、国籍等によって差別しない>

2-1 スピリチュアルケア師は、ケア対象者を、その人種、国籍、文化的背景、性別、年齢、障がいの有無、信念・信仰等によって、差別しない。
2-2 スピリチュアルケア師は、ケア対象者を、自らの先入観や偏見に基づいて見ることのないよう、心がける。

<ケア対象者・関係者との適切な関係の維持>

3-1 スピリチュアルケア師は、ケア対象者およびその周辺の関係者に対し、支配的な立場にならないように、また支配的な力を行使しないように注意する。
  スピリチュアルケア師は、対象者・関係者とのコミュニケーションを通して、互いを深く理解し、共感ないし尊敬し合う関係になり、対象者・関係者自身の人生および人生についての理解にスピリチュアルケアの観点で好ましい影響を及ぼすことがある。このこと自体は一般に適切な関係の範囲にあり、スピリチュアルケアの場面ではむしろ望ましい。しかし、スピリチュアルケアの性格の故に、ケア的関係において、スピリチュアルケア師はケア対象者・関係者に対して、目下のケアの目的の範囲を超えた影響を及ぼし易い立場になっていることが多い。そこで、相手との支配-従属関係、恋愛関係等々が生じ、あるいは、相手にスピリチュアルケア師にとって都合の良い行動・選択をさせるように誘導するといった不適切な行動を結果するおそれがある。そこで、このような可能性を自覚し、避けようとする姿勢が要求されるのである。

<自らの信念、信仰、価値観の相対化>

4 スピリチュアルケア師はケア対象者の信仰・信念や価値観、文化的価値等(以下、「信念等」)を尊重する。そのためにスピリチュアルケア師は、絶えず自らの内にある信念等をそれとして自覚するよう心がけ、ケアにおいて、自らの信念等を自らとケア対象者との共通の前提であるかのように振舞わないよう留意する。

<ケア対象者の信念等の尊重>

5-1 スピリチュアルケア師は、スピリチュアルケアを実践している間は、スピリチュアルケア実践における共通の信念等(※)を超えた自らの個人的信念等(※※)の普及を目的として活動はしない。また、「スピリチュアルケア」という名のもとでそのような活動をしているという誤解を生むような行動は、それを行うことがやむをえないと説明できる場合でない限りは、控える。
  ※「スピリチュアルケア実践における共通の信念等」とは、スピリチュアルケア師に共通の信念等として共通理解される範囲の信念や価値観等を指す。
※※特定の宗教信仰や、大方の人々に共通とはいえない信念等を、「共通の信念等を超えた自らの個人的信念等」(以下、「個人的信念等」)とここでは呼んでいる。
5-2 スピリチュアルケア師は、スピリチュアルケア実践においては、自らの個人的信念等に基づいてケア対象者に対してアドバイスや指導をしない。
  自らの個人的信念等に照らせば、ケア対象者に対して働きかけたいことがあったとしても、スピリチュアルケア実践においてはこれを差し控える。また、自らの個人的信念に基づく働きかけをすることが自らの信念に照らして必要だと考える局面では、スピリチュアルケア実践の範囲を超えた働きかけをすることについて、ケア対象者の理解と自発的な同意を得た上でこれを行う。
5-3 スピリチュアルケア師は、スピリチュアルケア実践における共通の信念等に基づいて活動することは当然である。しかし、ケア対象者とのコミュニケーションにおいて、これがその場における共通の前提であるかのように振舞ったり、またこれをケア対象者に押し付けたりしないように留意する。
5-4 ケア対象者に対する宗教的な祈りや唱えごとの提供は、ケア対象者から希望があった場合、あるいはケア対象者から同意を得た場合に限る。それを提供する際には、ケア対象者のみならず周囲に対する配慮もする。

<ケア対象者に関する情報の守秘義務>

6-1 情報、およびその他スピリチュアルケア師としての立場から知り得た情報に関しては、それを第三者に漏らさないよう適切に対応する。またそれを書面等のメディアに記した場合には、それを適切に管理する。とりわけ、個人情報が布教伝道や営利活動に利用されないよう、十分に配慮する。
6-2 ケアを通じて得られたケア対象者の情報に関して、ケア対象者のプライバシー尊重のため、自らの内にのみ留め置くべきか、あるいは何らかの正当な理由から他のケア提供者や支援者と共有すべきかを適切に判断する。

<情報の適切な扱い>

7-1 スピリチュアルケア師は、自らがスピリチュアルケア提供者として活動した場合には、その活動状況に関する報告義務を負う。具体的には、①ケア対象者の関係者、所属組織等に対する報告(それが必要と判断される場合)、②スピリチュアルケア師自身の所属認定プログラムに対する報告(所属組織の規程に従って行う)。
7-2 スピリチュアルケア師が所属する認定プログラムは、スピリチュアルケア師の活動に対して十分な責任が取れるよう、その活動内容を十分に把握する義務を有する。

<スピリチュアルケア師としての適切な振舞>

8-1 スピリチュアルケア師は、公的な性格を有する社会的役割を担っている。スピリチュアルケア師は、その社会的役割にふさわしい適切な振る舞いをする責任を有する。
8-2 スピリチュアルケア師は、その社会的役割の立場・地位を、乱用・悪用しない。またスピリチュアルケア師は、自らの発言に際して、それが公の立場からのものか、あるいは私の立場からのものかを適切に区別し、必要と思われる場合にはその区別を明確にしつつ、これを行う。
8-3 スピリチュアルケア師は、その社会的な役割に不適切な振る舞いをした場合には、相応の責任をとる。また、自分自身、あるいは他のメンバーが不適切な振る舞いをした場合には、その事実を日本スピリチュアルケア学会倫理委員会、およびそのスピリチュアルケア師が所属する認定プログラムの責任者に報告する。
なお、所定認定プログラムの責任者は、当該の件について報告を受けた場合には、当プログラム所定のプロセスに則って、会議を開催し、対応を検討し、責任ある対応を選択・実行する等の手順を踏むことが必要である。また当人は、その所定のプロセス(本人の不服申し立て当も含む)を経て得られた結論に従うことが求められている。

<スピリチュアルケア関係者・関係組織との関係>

9-1 スピリチュアルケア師は、本倫理規定のみならず、自らが所属する認定プログラム所定の規律、行動規範をも守る。また、その所属組織との良好な関係性の構築・維持に努める。
9-2 スピリチュアルケア師は、所属プログラムの他のメンバーとの良好な関係の構築・維持に努める。
9-3 スピリチュアルケア師は、所属プログラム外部の個人や団体、コミュニティとの良好な関係の構築維持にも努める。

<自己の限界の認識と向上する姿勢>

10-1 スピリチュアルケア師は、自分のケアの能力と限界をよく認識した上でケアを提供する。
10-2 スピリチュアルケア師は、一人の人間として、またスピリチュアルケア師として、自らの向上に絶えず努める。
10-3 スピリチュアルケア師は、人間としての向上およびその実践の質の向上を目指して、互いに支え合い、率直な意見交換等による共同の研鑽に努める。

<資料>

「Code of Ethics」(倫理綱領) Association of Professional Chaplains(全米プロチャプレン協会)
「ACPE Standards & Manuals, 2010 Standards」(ACPEスタンダード) Association for Clinical Pastoral Education, Inc.(米国臨床パストラル教育協会)
「臨床宗教師倫理綱領」(東北大学実践宗教学寄附講座運営委員会)